2009.04.12
2009年4月9日に東京ビッグサイトで開催された、フォルクスワーゲンのGolf6ローンチイベントに技術協力してきました。主にプレスとディーラー向けで数時間程度のイベントながら、巨大な27m、14mの全天周映像ドームと入り口・展示用の11mのドームがふたつ、それに大量の実車展示といった目を見張るような構成で、ビッグサイトの西3ホールいっぱいに展開しました。
当方(高幣俊之/オリハルコンテクノロジーズ)では、ドーム投影技術の提供、投影システムの設計と構築、一部コンテンツ素材の提供、現場でのドーム2つ分の設置調整、当日のオペレーションなどを担当しました。
これまでにもエアドームで10mくらいの仮設ドームは何度か経験がありますが、これだけの数のドームを一晩で、それもひとつは27mというビッグサイトの天井に届くほどの巨大なドームを組み上げるような規模の企画は初めてです。もちろんこれは、世界でも前代未聞の企画でしょう。
それぞれのドームはいわゆる「ジオデシックドーム」と呼ばれる、幾何学的な多面体の構造を持った骨組みで自立しており、それにスクリーン幕を上から被せてドームスクリーンにしています。実はこのスクリーン幕が火災の際の散水障害になってはいけないということで、生地にはレース状の網を使用しています。この副次効果として、投影された映像はドームの外側と会場の壁にも映し出されており、非常に面白い映像効果を生み出していました。自立構造のドームにはそれぞれ3方向に大きな出入り口を設けることができ、自由に出入りできるイベント向きのドーム空間になっていました。
メイン会場となる27mドームの中は、300インチの大スクリーンとステージ、450席の客席やライティング用のやぐらまで組まれたイベント仕様のうえ、本番では途中からドーム内に車が走りこんでくるという仕掛けでした。普段手がけているプラネタリウムでのドーム使用とはまったく異なる発想が非常に興味深かったです。
ドームに投影する映像は、もちろんすべて今回のためだけに制作されたオリジナルのもの。普段からCMやプロモーション映像を手がけられている映像演出の方による、完全に自由な発想で作られたクールな全天周映像と音響の組み合わせは絶品で、これをこの数時間だけの上映で終えてしまうのは本当にもったいない!と思いました。
当方の担当であるドームの投影調整は、会場明かりの消せる深夜帯に他の作業の方が皆帰ったあとから明け方までかけて行いました。絶対的な締め切りに追われつつ連日徹夜での作業はなかなかにきつかったですが、歪み補正、ブレンディングとも満足いく結果に仕上げることができました。きっちり映像補正してやることで、この巨大なドーム空間を越えて広大な映像空間を創り出すことができました。ジオデシックドームの骨格も映像の妨げになることなく、むしろ透けて見えるビッグサイト天井の鉄骨構造とあいまって独特の構造美を兼ね備えた印象となっていました。
通常であれば完全にドームの映像調整が終わってからスライス(投影補正のための映像変換作業)を行う必要がありますが、独自開発の高速スライサーをもってしても2つのドームの調整とスライスが間に合うかどうか危うく、またギリギリまで調整を追い込み続けたかったために、今回は現場にてリアルタイムスライス再生技術を開発して乗り切りました。これを使えば本番ギリギリまで、あるいは本番再生中にすら歪みやブレンディングの調整ができ、スライス作業が大幅に軽減されます。今後にも非常に役立ちそうな技術なので、後日しっかりまとめたいと考えています。
今回これだけの企画のなか、絶対に失敗の許されないミッションクリティカルな現場での開発とオペレーションは、非常によい経験になりました。特に、リハを繰り返してきたとはいえ本番の緊張感は尋常ではなかったですが、ともかく全ての回をつつがなく上映することができました。
9日当日は、3回に分けておよそ1000人の来場者があり、満員御礼のなかドーム映像や企画の面白みを存分に味わっていただけたかと思っています。
イベントを終えて、正直「無茶」なレベルの壮大な企画ではありましたが、総勢100人近くの現場スタッフとともに一丸となってこの一日限りの夢の舞台を創り上げる高揚感は、またとない格別のものでした。この前代未聞の企画の一助となれたことを誇りに思い、感謝しております。ともに働いた皆様方、ありがとうございました。また何か、面白いことやりましょう。
今となっては祭りのあと、手元に残るのは写真ばかりではありますが、少しでも現場の雰囲気を感じていただければと思います。