2008.07.06
IPS Conferenceは2年に一度、世界各国のプラネタリウムベンダーが集まって、2年間の実績や最新の製品発表などを披露しあう機会でもあります。展示会場でも様々な製品がデモされていますが、なんと言っても注目は3夜に渡って繰り広げられるドームでのデモンストレーションです。会場のAdler Planetariumには大小2つのドームシアターがあるのですが、大手ベンダーは会期の数日前から徹夜作業の急仕込みでフルデジタルドームシステムなどの大がかりなシステムを設置します。このIPSでのデモに向けて各社とも全力を傾けて製品開発をし、いろいろな前評判や、どこどこは秘密兵器をぶつけてくるらしいと言った噂などが飛び交い、当日にはガチンコ勝負でのデモ合戦となります。
今年の注目はなんと言ってもSkySkanによる世界初の8K(ソース解像度8000×8000)ドームデモと、4Kの立体ドームデモです。それに加えて、もうひとつの大手E&Sも数年越しにとうとう新製品をリリースするという噂もありました。
デモを見終えての感想ですが、8Kのドーム投影は確かに素晴らしい明るさと解像度でした。ただ、現状でも苦労の多い4Kドーム映像の4倍にもなる8Kドーム映像は今のところあまりに制作が大変そうで、今回のデモでも静止画の投影が中心となっていました。これを実現するコストを考え合わせると、よほど明るさと解像度が必要な大きなドームでもないと現状ではコストパフォーマンス的に厳しそうだと感じました。そして立体ドームデモですが…確かにSony SXRDによる立体投影は非常に明るくて像も鮮明だったのですが、正直、立体ドームの環境を活かせていないと強く感じてしまいました。すでに4D2Uプロジェクトでさんざん苦労した経験から言って、Infitec特有の色のチューニングや映像の見せ方が甘く、立体としてはずいぶんと見にくい映像になってしまっていました。フラットなドームだったというのも立体視しにくかった原因の一つでしょう。SkySkanともども、この新しいメディアの長所を活かしてアピールできるよう、これからも見せ方の修練が必要だと強く感じました。むしろその後に登場した、Super Megastar IIの精細な星空の方が、観客にはよほど印象的だったかもしれません。ちなみに、Mitakaのソースコードをベースに追加されたDigitalSky2 release2の天の川銀河モデルは、Spitzerのデータをもとにした星形成領域の表現が加わって大変美しいものになっていました。
E&Sは新しいDigistar4を発表し、主にインターフェースを中心にデモを行いました。細かく使い勝手を考えられた新しいインターフェースは非常に興味深いものでした。ソフトウェア開発者の視点から見ると、インターフェースの刷新以上に、思い切って構造から丸ごと設計しなおしたのであろうことがうかがえます。宇宙映像についてはDigital Universeの採用がアナウンスされただけでほとんど映像が見られなかったのが残念でしたが(まだ作っている途中なのでしょう)、長い開発の時間を経てようやく公式発表の日を迎えたE&Sの開発陣に賛辞を送りたいと思います。
SCISSのUniviewによるドームデモは、ごく最近の開発トピックである超高精細な火星表面のストリーミングレンダリングと、遠隔連携機能Octopusによるリモートライブショウでした。実はSCISS自身としては初であるドーム投影補正も隠れた技術革新のひとつで、Projection DesignerをもとにどんなシアターでもUniviewがセットアップ可能になりました。しかし、本当の革新的な発表は、他社の模倣を避けるべく関係者のみを集めたスニークプレビューで行われたのです…。
今年いきなり最上級スポンサーの一つとしてデモを行った大平技研は、エアドームによるMegastar Zeroに加え、ドームでのMegastar ZeroとSuper Megastar IIの投影デモ、そして急きょ決まったというSykSkanのDigitalSky2システムとの連動デモでした。ほとんどの観客(目の肥えた業界人ばかりですが)は初めてMegastarの星空を見たのでしょう、精緻な星空を眺め、手渡された双眼鏡で天の川を覗いては歓声を上げていました。日本発の技術でこれだけ広く感銘を与える様子は、見ている我々としても誇らしい気持ちになれました。また、技術的にはそうとう難易度の高い光学式とデジタルの連動を、現地でなんとか実現してしまう技術力もさすがです。今回のデモは大成功でしたが、そのために連日徹夜でホテルにも帰ってこない大平技研(+東京現像所)の面々の努力には頭が下がります。本当にお疲れ様でした。
ダークホースだったのは、Carl Zeissによる超高コントラストのプロジェクターVELVETの発表でした。100万対1という圧倒的なコントラストによって投影領域の黒浮きが全く見えず、ついに究極の漆黒を実現していました。輝度は1000ルーメンと少し物足りない気もするものの、光学式プラネタリウムの星像にデジタルの星座絵などを重ねる使い方には最適のプロジェクターと言えるでしょう。こういったサプライズがあるのもIPSの醍醐味です。